第4話 夕焼け空に溶けていく

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 谷崎くんは奪った写真を見ようとはせず、ただぎゅっと握って立っていた。  その手がかすかに震えている。  うつむいた顔を前髪が隠していて、表情がよくわからない。 「谷崎くん……あの」 「残りの写真は、捨てるなり何なり好きにしてくれ」  尖った口調でそう言うと、谷崎くんはいってしまった。何か、まとわりつくものを振りほどこうとしているかのように、足早に歩いて行く。  私はしばらく動けずに、ぼんやりと谷崎くんの背中を目で追っていた。 「なによ。あんな言い方しなくてもいいのに」  文句を言ったものの、やっぱり私が余計なことをしたのかも、とすぐ弱気になってしまう。 「好きにして、って言ったよね、この写真。それなら、ものすごーく大事にしてやるんだから。私の部屋にいっぱい飾っちゃうんだから」  言いながら、袋から写真を取り出す。触れた手に温度を感じるような、たくさんの風景写真だった。  やっぱり、谷崎くんの写真は素敵だ。だけど……  人物の写真はなかった。谷崎くんが持ち去ったあの一枚だけみたいだ。  谷崎くんはどうして、あの写真だけ持っていったんだろう。  ふと思ってポケットの切り抜きを出してみた。夕焼けの写真記事。  ここに写っている後姿の女の子と、さっきの笑顔の女の子は同じ人なのかもしれない。  そんな仮説を立ててみたところで、肝心なことは少しもわからなかった。 「なんで、そんなに一人で抱え込んでいるのかなあ」  つぶやいた言葉は夕焼け空の向こうに溶けて、消えてしまった。
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