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谷崎くんがいない。
学校には来ているはずなのに。朝、昇降口で確かに彼の姿を見たのに。
池で写真を拾った次の日の朝、私は谷崎くんが登校してくるのを、今か今かと待っていた。
昨日の今日では話をしてくれないかもしれない。けれど、せめてあいさつだけでもしたかった。
それなのに、三時間目が始まろうとしているこのときになっても、谷崎くんは教室に現れない。今朝見かけたときは、一体どこに向かっていたんだろう。
とうとう、四時間目の終わりを告げるチャイムが鳴った。
クラスの人たちに谷崎くんのことを聞いてみたけれど、学校に来ていることさえ知らないようだった。
どこを探そう。私はとりあえず教室を出た。
「真純、なに急いでんの?」
リオがパンと牛乳を持って、こちらに歩いてきていた。売店に行ってきたんだな。相変わらず行動が早い。
私は勢い込んで、谷崎くんを見なかったか尋ねてみた。
「あー、なんか、見たかも。学校休んでると思ったらいるんだもん。びっくりしたよ」
「どこで?」
「特別教室のあたりだったかなあ。図書室とか、あの辺の方向に行ってた」
「ありがとう、リオ」
お礼をいいながら、足はすでに動き出していた。きょとんとした顔のリオに手を振り、早足で向かう。
図書室に入ると、もうお昼ご飯を終えた生徒たちが何人かいた。
そこで同じクラスの女の子を見つけたので、谷崎くんのことを聞いてみた。
「え、ううん。知らない」
「私も」
期待していた答えは返ってこなかった。
私がお礼を言って立ち去ろうとしたとき、彼女たちは話題を振ってきた。
「ねえねえ、原田さんてさ、最近、谷崎くんと仲良くない?」
「えっ?」
彼女たちの好奇心に輝く目を見るに、やっぱりそういう意味の質問なんだろう。
けれど私には縁遠い話に思えて、ぽかんと口を開けたまま、二の句が継げない。
どうやってごまかそうかと悩んでいると、話は意外な方向に進んでいた。
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