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AMNESIA
それは美しい蝶だった。
陽の光を浴びた鱗粉が、まるで魔法の粉のように煌めく。その羽根の色は瞬きをする度に色を変えた。
この蝶が出現したのは、桜が咲き始めた頃のこと。
蝶の写真をSNSに投稿した人は、それから3日後、行方不明となった。
家族によって出された捜索願いの甲斐あって、それから2日後には保護されたが、その人には一切の記憶がなくなっていたらしい。
その為、自宅の場所も、自分の名前さえわからなくなり、あてもなくさ迷っていた、と言うのが全容だ。
「…………」
パソコンの画面に映し出された黄金の蝶と桜の写真、そこに映り込んでいる景色だけを頼りに俺は場所を特定しようとしていた。
山へ登る準備も出来ている。あとは蝶に出会えることを願うだけだ。
今は日曜の夕方。
朝からずっと蝶について調べていたが、気づけば部屋が薄暗くなっていた。
すると、自室の扉が遠慮がちにノックされた。
「お兄ちゃん? ご飯出来たよ」
扉の向こうから妹の沙彩(さあや)が声をかけてきた。俺はパソコンをシャットダウンすると、両腕を思い切り頭上へ伸ばした。
「今行くよ」
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