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「なあなあ、写真撮ろうぜ。」
そう言って翔が一眼レフを取り出した。 雨にカメラが濡れるからやめた方がいいと言うと、 無視された。 そして、翔はビニール傘にレンズを当てて写真を撮 りはじめた。
「雨空、撮ってみたかったんだよ。」
翔が笑って見せた。 雨空は綺麗だ。 けれど、雨の日はどうしても好きになれない。
「じゃあまた。」
家についたので、3人と別れる。 傘をたたんでいると3人が手を振っているのが、睫 毛見ついた水滴でボヤけて見えた。 手を振り替えすと、手についていた雨が飛び散った 。
「またねー。」
天月の声が雨の音でかきけされる。 最後までこちらを見て手を振っていた天月が振り替 えるのを見て、手を振り返すのをやめた。
傘を壁に立て、戸を開ける。 母さんの「おかえり。」に適当に返事をして2階に ある自分の部屋に行く。
英語の勉強しようと思ったが、辞書がない。 きっと隣の部屋にいる妹が勉強しようと勝手に辞書 を持ち出したんだろう。 妹は今年で小学6年生で、同じ中学校を受けるつも りらしい。
「おい、入るぞ。」
妹の部屋の戸をノックする。 戸を開くと妹の背中が見える。
「何?」
妹が少し嫌味に問う。
「辞書。」
と、単語だけを言うと、妹が英和辞書を投げてくる 。 運良くキャッチしたが、顔にでも当たったらどうす るつもりだったのだろうか。
「どーも。」
辞書を持って、自分の部屋へ戻り戸を閉めた。 電子辞書やスマートフォンを使えばいい。 そういったようなことを言う人はたくさんいるが、 紙の辞書がいいのだと父は言った。
窓の外から、雨の音が聞こえる。 窓を開けると、雨が顔にかかる。
雨は汚い。 雨は冷たい。 雨は涙のようだ。 空が泣いている。
瞳を閉じ、空の涙を受け止める。
受け止めきれず、窓を閉めた。
窓のまわりは少し濡れてしまった。 タオルをとりだし、顔を拭く。 窓際は拭かずにおいといた。 きっとまた痕がついて、母さんに怒られるのだろう 。
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