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月の魔法
空気中を静かに伝わって、月の光が地上へと降り注いでいる。
遥か眼下の湖もまた、月の光を受けて僅かにさざめいていた。
向かい合った長政と市の間にあるのは張りつめた空気。
先に口を開いたのは市の方だった。
「私は…ずっと長政さまと一緒にいたい」
「この城にいては市の身が危うくなるだけだ」
いつもより固い声。
長政は市と視線を交わそうとはしない。
「長政さま…」
こっちを見て、というように市が長政の手を取った。
「……市っ」
ようやく重ね合わさった瞳は互いに揺れている。
長政は両手で市の頬を包み込んだ。
力が入っているせいか微かに震えている掌。
こつん、と額が重なった。
「私だって…市と離れたくないよ」
「なら…っ!」
「愛してるから――今は離れていて欲しい」
優しい口づけ。
それは、たくさんたくさん想いを伝えるための魔法。
切なくて切なくて。
市は小さく頷いた。
fin.
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