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忘却のアニバーサリー
「ねえキネン。今日って何の日か、覚えてる?」
幼なじみのシアコはいつもより3トーンぐらい低い声で下を向いてそう言った。
俺は何怒ってんの?知らねえよ。と、嘘の言葉を能天気な声で誤魔化し笑いながらそのまま先に進む。
高校三年生の春。4月28日。
桜はあっという間に散って昼間は半袖でも過ごせるくらい暑くなって、そんな帰り道。
勿論今日が何の日かなんてそんなこと分かってる。
けれど何故か俺は正直に言葉を生み出せなくて、嘘をついた。
いつも通り共に帰路を歩く。
しかし本名幸子(サチコ)ことあだ名シアコの幼なじみは、その場から動こうとはしなかった。
ここで放置すれば更に面倒な事になると思い、俺達今年で18歳になるんだぜ、いつまでも子供みたいな態度なんてとってんじゃねえよ、と言って肩を叩くとそれは見事に払い除けられた。
何すんだよって、苛つきながら目の前の顔を見れば
そこには少しだけ溜まりつつある涙があった。
「ーーーーアンタなんか、大嫌い」
風が吹く、目の前にある明るい茶色がかったパーマの髪が、ふわりと揺れる、俺は口の中が乾いていくのを感じながら、苛立ちが溢れる胸の痛みと動きを誤魔化そうと大声を上げるためにゆっくりと息を大きく吸ったーー。
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