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「うそだろ……」
俺は絶句した。数えきれないほどの蛾が、この東京の空を覆っているのである。昨日まで、何の異変もなかった。またいつもの毎日が始まるはずだった。
開けた窓から外を見ると、道路をサラリーマンが歩いていく。彼は腕時計を見ながら早足で歩いていく。
「外は、だいじょうぶ、なのか?」
彼は駅に向かって歩いていく。
俺の住む場所が少々人通りが少ないのに加え、今起きている時間が朝の四時ということもあり、彼以外の人を見かけない。くそっ。もっと人がいたら、外が安全か分かるのに。
そうだ。テレビをつけよう。今の時間だってニュースぐらいやってるはずだ。そう思いリモコンの電源ボタンを押した。
だが、反応がない。
スマホはどうだ? 電源ボタンを押しても、何の反応もない。
一体、何が起きているんだ。
新種のウイルスか? 電波妨害か?
分からない、分からない、分からない、分からない。
ふと外を見ると、先ほどのサラリーマンが道を引き返してきた。
だが、足取りがおかしい。どうしたんだろう。
途端に、彼が苦しみだした。目を凝らしてよく見ると、肌には赤い斑点ができていた。そして、空から何か光る粉が降っていた。
なんだろう。俺は窓を開けて粉を手にとってみた。粉はキラキラと光り輝いている。おそらく、空にいる蛾が振りまいているのだろう。
開けっ放しにしていた窓から、風が吹き込み、粉を部屋中に撒き散らした。
その瞬間、呼吸が苦しくなった。徐々に意識が遠のき、視界は暗転した……
「次のニュースです。先日、東京に突如現れた無数の蛾により撒き散らされた粉末に、感染症のウイルスが含まれていることが判明しました。この粉末が気管に入ると呼吸困難を起こし、肌に触れるだけでも痒みが襲います。とても致死率の高い感染症ですが、今現在明確な治療法は発見されていません。数日は外出を控え、外出する場合はマスクなどを着用し、粉末を吸引しないようにしてください。
次のニュースです……」
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