【お試し】イミテーションダンスホール

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 十数年前。  とある砂漠の戦線。 「やーやー、キミが噂の少年兵かい?」  医療ポッドを勝手に開けて覗き込む顔があった。白衣を着た長身の男で、いかにもインテリな気に食わない顔。砕けた俺の体が面白いのか、薄ら笑いを浮かべてジロジロ見ていた。 「ほとんど生身なのによくやるね。ミサイル基地を単騎で破壊なんて正気の沙汰じゃないよ?」  声が出せればうるさい、どこかへ行けとでも言えるのだが……あいにく今の俺には顎もなく、その上左足と右腕が無い。体は全身火傷で動かせず、しかし脳核と脊髄が無事だったので意識はハッキリしていた。 「さて念のため確認しよう。札とそのピンク髪を見る限りだけど……朝桐マコト君……であってるよね?」  俺は目線をそらしたが、それを白衣の男は肯定と受け取ったようだ。 「うんうん、良かった。まだ死んでなくてよかった。それでだマコト君。前口上は抜きにして――もうちょっと稼ぎたいとは思わない?」  ストレートな物言いに、俺は警戒の目を向けた。  確かに俺は戦争の犬。軍からPMC(民間軍事会社)に身を落とし、金が欲しさにこんな家業に勤しんでいる。  でもそれは妹の治療費を稼ぐ間だけだ。払い終わったらさっさと帰国するつもりだった。 ただ悲しいことに未だ十分な額に達してはいないし、毎月莫大な金がかかる。この白衣の男はそれを十分に知っているのだろう。 「実はキミにだけいい話がある。最新の全身サイボーグ被験者を探していてね。詳しくはこれを見てくれ」  そう言うと、男はメモリーカードを取り出して、俺の首元のピンに挿した。  流れてきた情報はハッキリ言えば、ヤバいものだった。  それだけなら即答で断るものだが……提示された金額はあまりにも魅力的で、俺と妹の治療費を全額負担するという特典付きだった。しかも、非合法ながら政府のお墨付きだ。 「もちろん即答してくれなんて事は言わない。治療しながらゆっくり考えてくれ」  白衣の男はメモリーカードを引き抜くと、足元に落として踏み潰した。秘匿性の高い情報だからこその処置だろう。 「そろそろこの戦線も終結を迎えそうだ。キミはここにいれば英雄扱いだけど、こんな貧相な国から出る金なんて雀の涙さ。すぐにでも次の戦争に行くのだろう?」  俺は白衣の男を睨む。逆にこれしかできないのが悲しい。 (続きは本編にて!!)
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