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本通りを通っていくチンドン屋は、路地に立っている私達からは少し距離がある。それでもなぜか、その一人と目があった。
気が、した。
それだけのコトに、心動かされる。
彼らを身近に感じて、その親近感に戸惑う。
無闇にオドけ、楽しさを演出しすぎて空回っている、その空回り具合が見所と言えるこの芸能は、私自身のように感じられて可笑しかった。
そして、同時に、初めて温かく感じた。
丸みを帯びた柔らかな風が、綿毛のようにこそばゆく胸を撫でていく。ウキウキとした高鳴りすら胸に抱えて、私は彼らの後ろ姿を見つめた。
私は、今、幸せかもしれなかった。
『おめゃあさんは、気ぃは強ぇに、でぃやぁじなこたぁなぁんも言ぃせんと、ただ考えからかしとるでかんわなも』
ひいおばあちゃまの掌を頭に感じる。
今、私が言うべきコトは、何だろう。
「……ナルセ君」
「……ん」
ナルセの顔は、見られない。視線はまだ、チンドン屋の背中に向けたままだ。
「私、ここ、ちょっと苦手だったの。何か、沢山色々あって面白そうな雰囲気が、逆に少し息苦しかった。
でも、ナルセ君となら、また、歩きたいって思う」
「ホントッ?! また来ようよ! 今度は二人で!」
すぐさま調子づくナルセ。この、私に遠慮のない感じは弟そのままだ。つい笑ってしまう。
「嬉し。ユッコちゃんが笑った」
でも、こんな優しい微笑みは、弟は私には向けない。
私は、ナルセの瞳の真ん中に自分がいることを、しっかり抱き止めた。
抱き止めていきたいと、思えた。
「また、会おうね。二人でね」
途端、いつ? いつが空いてる? てか連絡先知りたい! LINEは? アドレスは? 喋りだすナルセ。
その騒々しさが、私の表面に幸せをザリザリと擦り付けているようで、私はまた、可笑しかった。
終わり
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