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私がナルセの隣で笑いながら、その実、胸の奥で冷たい氷を抱えて過ごさねばならぬかと思うと、やりきれない気がした。
「俺は、ユッコちゃんが、好きだよ」
仔犬のような瞳で、今までになく真剣な表情をして呟くナルセの言葉が嘘だとは思わない。それでもどこか、私の中で滑稽に響くのは何故なのか。私がナルセを好きじゃないから? 彼と私の、想いの熱量の差だろうか?
「これから俺を、好きになってくれたら良い。付き合って」
「何で?」
何で、今?
何で、こんな初めて会った日に?
何で、私?
「私、煩いよ。今日もナルセ君にダメ出ししたけどさ。ヤなものはヤだし」
「直すから、俺」
「そーゆーの、疲れるよ」
「いい」
「いや、でもさ」
「いいっ! だって、ユッコちゃんが良いんだもんっ!」
何その我が儘っ! 何その子どもじみた主張っ!
私が思わず絶句した隙を狙ったのか、ナルセが私の右手を取ってぎゅっと強く掴んだ。
「俺、ユッコちゃんがいい」
……その台詞を、なぜ初対面のナルセが私に宣言できるのか。
不信感は決して小さくない。
それでもこの破壊的な力は何だろう。
今まで誰も選んでくれなかった私を、選んでくれたから? 私が破れなかった殻を、外から破ってくれる強さを感じるのだろうか?
渇いた角膜をギリッと瞼が撫でていく。一瞬の暗闇の後、またゆっくり広がった視界の真ん中に、やはりナルセは、真剣な顔で立っている。
その顔を無言で凝視していると、景気良さげな気の抜ける音楽が聞こえてきた。土日を中心に一定の時間になると商店街を通る、大須名物のチンドン屋だった。
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