第1章 この世界

13/14
前へ
/16ページ
次へ
「ほら、雷獣さーん、ごはんだよー。」 先ほどから私の手からかぶりついて離さない雷獣。 片手にイノシシの肉を持ち、目の前でプラプラ振ってみる。 すると手から口を離し、目線がそちらの方に行き、まるで猫のように飛びついて食べた。 だが、体が予想外に大きかったので私は押し倒される形になった。 「いっ…たた……!?」 目の前にあるのはもふもふ。 お腹部分のもふもふ。 これはもふもふしないという手はないであろうもふもふ。 私はそっと両手を雷獣のお腹に当て、そっと撫でる。 「ぁぁあ…っ!!」 歓喜の叫び。 あまりにも柔らかく暖かい。そしてふわふわもふもふしている。 (抱き枕にすればどんなに気持ちいいことか…!!) 想像するだけでとても癒される。 なんとしてでも懐けさせなければ…!! 5時間後、村はずれの森にて。 『アリス…お前…』 やけに困惑している表情のアトレア。 森を駆け回る雷獣に乗り、やけにハイテンションな私。 そう、実はたった5時間。5時間で懐いたのだ。 「雷獣さん、右…!そこの鳥捕まえて…!」 そう言うと雷獣は高く飛び上がり、樹の上の方に止まっていた鳥にかぶりつき、あっと言う間に捕まえてしまった。 そしてその鳥を後ろに投げ、私が受け止める。 先ほどからその作業を繰り返している。 どうやら雷獣はこの作業が楽しいようで、私の指示に従っていくにつれ私に懐いて行った。 『そろそろやめにしようか。森の生態系を崩しかねない。』 「はぁい…。雷獣さん、もうおしまいだってさ。家に帰ろ。」 楽しかったのにね、と雷獣の首にぎゅっと抱きつく。 よほど楽しかったのか、雷獣はご機嫌そうに高く飛び上がり、村に戻る。 ふわりと砂埃を上げ、着地する雷獣。 その背中から降りて、ありがとうとお礼をするとぺろっとほっぺを舐められた。 『訓練はこれで終わりだな。雷獣を戻せ。』 わかった、と返事をし、私は雷獣のおでこに手を当てる。 「汝、我を導く者。我の呼びかけに応え、美しき天界に戻らん。幻獣__雷獣」 厨二のような詠唱を唱える。 蛍のような光が雷獣を囲み、そのまま雷獣は消えていった。 「…アトレア。…これってあとで呼び直せる?抱き枕にしたいのだけれど。」 『お前そんなにもふもふが好きなのかよッ!!』 アトレアの盛大なツッコミが入った。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加