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日が沈み、月が空に大きく浮かび上がる。
「アトレアー…満月だねー…」
木の幹に腰掛け、月を見上げるとするり、とアトレアが首に巻きつく。
『そうだな。…綺麗な月だな。』
ふと視線を下にやると、木の下ではまだ人型になりきれていない人蛇族の子供らが灯の入った鬼灯を持ち、きゃっきゃっと賑やかに追いかけっこをしていた。
ふっと口元に笑みを浮かべる私にアトレアはぺろりと?を舐めた。
「ん…どしたの?」
きょとん、とした表情をし、アトレアを見るとなんでもない、と首を振った。
そっか、とまた視線を子供らに戻す。
「あっ…」
木の根につまづいたのか、子供の一人が転んだようだ。
苦痛の表情し、嗚咽をあげながら大粒の涙を流す少年。
すぐさまアトレアが私の首から離れ、人型になり、その少年の前にストン、と飛び降りる。
それにつられるように私も黒い翼を広げ、アトレアの後ろに行く。
「大丈夫か?…あぁ、膝を擦りむいてしまったのか。どれ、見せてみろ」
目線を少年に合わせ、傷口を見るアトレア。
「うっ…ぇえ…っ…いたいよぉっ…」
大粒の涙を流し、ズボンの裾を少し持ち上げる少年。
「…しまったな。…治癒を使える奴は今、村には居ないのだが…」
困った表情のアトレア。
そんなアトレアの服の袖をくいっと引き、前に出る。
「威力強すぎるかもしれないけど……お姉ちゃんが治してあげる。」
そっと傷口の前に両手を添え、詠唱を唱える。
…遥か遠くの北の国で禁忌とされている詠唱を。
「__すべての者を守りし者よ。今この時、禁忌を犯した我の名を告ぐ。_リカバリー」
ふわりと風が吹き、少年の周りを囲む。
少年の足元には魔法陣。
「……アリス、あれは一体…ッ」
アトレアの声を遮るように私は翼を広げ、一つ羽根をむしり取る。
ビリっと脳内に電気が通ったような痛みがするが、気にせずにその羽根を魔法陣の中に入れる。
瞬時に、少年の周りが光り輝く。
夜なのに昼のように感じられるその光にアトレアも、子供達も、少年もぎゅっと目を瞑る。
しばらくすると、光が消え、少年が現れる。
「お姉ちゃん…すごいッ!!僕のけが治ってるよ!!しかもほら!人にもちゃんとなれてる!!」
そっと目を開け、自分の姿とけがを見、ぱぁあっとした表情を見せる少年。
「…よかったね。」
ふわりと笑い、頭を撫でると、うんっ!と輝かしい笑顔を少年は浮かべた。
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