第1章 この世界

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「なぜってそりゃ…童話にもなってるくらいだし…ねぇ?」 ウェットティッシュでアトリアの口元を拭く。 なるほど、と目を閉じ、気持ちよさそうにするアトリア。 …こうしてると可愛いんだけどなぁ…。 しばらく無言ののほほんとした空気だったが、 「アリスー!?いる!?いるわよね!?」 ノックもせずにおもいっきり扉を開けるこの世界での親。 とっっっても元気な母親、カウス。それと無言だけれどちょっと過保護な父親、アウストラリス。 すっかり忘れていたがこの世界でのわたしの名前はアリス・ベルフェゴール。 頭にツノがない異形の魔人族だ。 そんな二人はわたしの首に巻きついている蛇、アトリアを一目見て固まっている。 数分たっても固まってるので、アトリアに何かしたかという目線を送るが、ふるふると首を横に振る。 ハッと我に返ったお父さんがずんずんとこっちに向かってくる。 威圧感を放つお父さんだったがそれよりも威圧感を放つアトリア。 口を開き、シャーッと威嚇するアトリアに、私はそっと頭に手をのせる。 そのまま撫でてやると少しは落ち着き、目はまだ敵対心が溢れるままだったが、威嚇はしなくなった。 それを見たお父さんから、ふっと威圧感が解けた 「まさか王蛇を使い魔にするとはね…」 後ろの方でずっと見てたお母さんが苦笑いでこちらを見る。 『そういうことにして、リギスィー村に行ってもいいかどうか聞いてみろ。』 と脳内に語りかけるアトリアを横目でチラリと見て、 私は一つ息を吸い込み、 「突然で申し訳ないんだけどお父さん、お母さん。 …リギスィー村に行ってもいい?」 この行ってもいい?と言うのは「住んでもいい?」になるのだろう。 本来ならアトリアの居場所はそこなのだから。 二人ともそれを察し、お父さんからは反対されたが、お母さんの無言の笑顔で押されたのか、 行ってもいいということになった。 どの世界でも主権を握っているのは母親の方なんだね…
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