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「依頼者の感覚がうつったか?」
冗談のつもりで言ったのだが、三条がまだ奥歯にものがはさまったような表情をしているのを見て、先野は静かに笑った。
「気配はあくまで気配だ。脳が作り出した幻にすぎん。大事なのは客観的視点と物的証拠だ。嫌な予感を無視しろとは言わんが、気にしすぎるのも判断を狂わせるぞ」
はい、と素直にうなずく三条。
「依頼者はもうすぐ出てくるのか?」
先野は業務に戻った。磨りガラスのドアを一瞥する。エステティックサロンの落ち着いた店構え。黄緑とオレンジ色のデカールがガラスに貼られ、店内からの照明があかあかと照らす。
「はい、あと10分ほどで」
「では、彼女が出てきたら引き継ぎを伝えて、三条は帰って休んでくれ」
「はい」
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