5. 妄想と現実と

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 骨折は免れていたが、捻挫で探偵業はしばらくできなくなってしまった。  依頼を受けてから三日目の午前、先野からそんな連絡が入った。 「困りましたね……」  そう言う原田将太はちっとも困ったような顔ではなかった。たぶん、先輩である三条愛美がどうにかいい手を考えてくれるだろうという甘えがあったからだろう。 「とにかく、急にほかの人員を割くわけにはいかないから、当面は二人きりで乗り切りましょう」  三条は現実的だった。 「ええー? じゃあ十二時間労働になっちゃうじゃないですかぁ」  情けない声を出す原田。三条はため息をついた。  探偵業ではどんなアクシデントがあるかわからないのに、パートタイマーの気分でいる原田にあきれたが、いちいち説教する気にもなれず、さっさと帰ってもらいたくなった。
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