6. マンションの一室で

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 古びた5階建てのマンションの4階、403号室。「伊藤」という小さな表札がかけられていた。  大きな窓のリビングルームは、テーブルとテレビ、パソコンデスクが隅にあるだけで、他に調度品はない。モデルルームのような生活感のなさ。 「まぁ、そこへどうぞ」  男は先にテーブルについた。  三条はその向かいのイスにすわる。警戒心が顔に出ないように気を引き締めた。  ──なにが目的なのか、よくわからない。  ──ほいほいとついてきてよかったのだろうか。  そんなことを今さら思ってしまう。 「さきほど見てしまったことについては、どうか口外しないでほしいんです」  そう言って、男は1万円札の数枚、テーブルに置いた。  ますます怪しい。
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