2. 妄想が止まらない

2/10

28人が本棚に入れています
本棚に追加
/69ページ
「そんなはずはありません! ぜったいに誰かに狙われているんです!」  依頼人である女は目をむいて抗議した。丸顔の真ん中で目が危険な色をしていた。  それに対して、四人掛けの白いテーブルをはさんで座っている男は冷静だった。なだめるような、というより、まるで相手にならないといった感じで受け流す。 「では、もし実害がありましたら、申し出てください」  先野光介(さきのこうすけ)は室内にいるにもかかわらず白いソフト帽を目深にかぶり、鍔ごしに依頼人の女を冷気をたたえた目で見返した。  女は鬼のような形相で立ち上がる。その勢いでイスが後ろへ倒れるが、女は気にしない。太った体を仁王立ちにして、先野を睨めつける。白のスーツ姿というのが、どこかしらからかわれているようにも感じられて。
/69ページ

最初のコメントを投稿しよう!

28人が本棚に入れています
本棚に追加