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「それにしても広い学校ねぇ。とても公立高校とは思えないわ」
「あんた方向音痴なのに大丈夫なの? 迷ったりしてない?」
「思いっきり失礼だなお前……」
流石にもう半年以上通っている学校だ。自分の教室やよく行く場所くらいはいかな俺でも一人で歩ける程度には覚えている。
「あたしとしてはよく行く場所以外の話をしてるんだけど」
「……」
「やっぱりね」
無言で天城から目を逸らすと、そらみたことかと盛大に鼻で笑われた。
「いや違うんだ。用もない場所なんて覚えてても意味ないだろ? 記憶容量の効率を良くするためにあえて憶えてないんだ」
「いや、進級したらその内使うこともあると思うし意味ないなんてことはないと思うけど……」
まあ正直な話、移動教室などで使う特別教室は特別教室棟にひとまとめになっているから授業には困らないし、あと俺が憶えていないのは各部活の部室だったりの関連施設くらいなものだ、部活に入るつもりのない俺にはおそらく三年間無縁な場所だろう。
「しょうがないわね……聖夜さん、どのくらい時間もらえる?」
「んー、三時には戻ってきてほしいわね」
「あと三時間か……あんたは? この仕事どれくらいで終わる?」
何事か算段をつけ始めた天城に問われるがまま、時計を見上げる。
時刻はそろそろ正午を回ろうかといったところで、福原さんとの交代時間になる寸前だ。
予定ではそろそろ福原さんがここにくることになっているのだが……
「風裂君……時間だよ……って、ええ!?」
と、考えたところでからからと控えめに教室の戸が開き、その向こうからひょっこり福原さんが顔を出す。
時間ぴったりに戻ってきた福原さんは、我が物顔でどっかりと受付の椅子に座る天城を見て驚愕の声を上げた。
「あ、変装外してるの忘れてた」
「お前……」
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