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「そういえば二人は雷ちゃんと同じようゲームしてるんだよね。向こうの雷ちゃんはどういう感じなの?」
「んー、それは俺よりこっちの方が詳しいっすね。なにしろログインしてからほぼ常に一緒にいますから」
そう言って氷雨が美月を指差すと、風香は改めて美月に視線を戻す。
「ふーん」と風香に見定めるような目で突然見つめられ、思わず美月が僅かばかり体を引くと、風香はそんな反応にくすりと笑みをこぼし「大丈夫大丈夫」とぱたぱた手を振った。
「そんなに怖がらなくても何もしないよ。
でもそっかそっか。雷ちゃんが言ってた友達って君のことかぁ……うん、聞いてた通りの子だ」
と、この言葉に美月がぴくりと反応する。
意中の相手が自分のことを家族に話しているとなれば、恋する乙女として気にならない訳がない。
そんな美月の機微を察した風香は、ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべて「んふふ~」と異様に勿体ぶってみせる。
氷雨がそんな二人のやり取りを呆れながら見ていると、テーブルの天板の下から電子音が鳴り響き、美月が慌ててアラームを止めていた。
「す、すいません……私の接客は五分までって百合に決められてて……」
「そりゃまあ、輝宮目当ての野郎共の接客もしなけりゃだしな。悪いな、忙しいとこ邪魔して。俺達もすぐ出るわ」
「えぇ~、お姉さんもうちょっと美月ちゃんとお話ししたぁい」
「なに子どもみたいなこと言ってんですか。ほら行きますよ」
いつの間にかーーおそらく入れ替わるときにーー百合がタイマーをセットしていったようで、一応身内の氷雨達にも彼女の商魂は容赦してくれないらしい。
ぶうたれる自称お姉さんを立たせると、氷雨は手書きの伝票を掴み入り口に置かれた会計に向かう。
会計は別の生徒が請け負うらしく、美月がここでお別れと伝えると、突然風香が美月に歩み寄り、耳元に口を近づけた。
「雷ちゃんは君と一緒に居たいって言ってたから、安心していいよ」
「ふぇっ!?」
言うが早いか、「またねー」と楽しそうに教室を出て行く風香。
その場に残されたのは、真っ赤に沸騰した美月と体良く支払いを押し付けられた氷雨の二人。
その後美月は十分ほど使い物にならなかったと言う……。
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