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「暇だ……」
ぐったりと机に体を突っ伏して、ため息を一つ。
現在時刻は午前十一時五十分、クラスメイト達の父兄の方々の足も落ち着き、時計がカチカチと時を刻む音が響く教室の中で俺は盛大に暇を持て余していた。
姉さんの襲来から暫くの間は、来客も決して多くはなかったもののそれなりにあり、その都度展示物の補足説明などをして時間を潰せていたのだが、それもあっという間に終わり、既に一時間以上来客はない。
かといってこの場を離れるわけにもいかず、暇のお供に持ちこんだ読みさしの本も栞の位置が悪かったらしい。あっという間に読み終えてしまった。
「失礼しまーす……」
「あ、はい。こんにちは」
不思議なもので、退屈な時間というものは往々にして実際よりも随分と長く感じるものだ。
想像以上の苦行にそろそろ心が折れかけてきたところで、不意にカラカラと教室の戸が控えめに開かれ、そこから一人の女性が入ってきた。
反射的に返事をしながら立ち上がり、女性に目を向けると、その女性が俺とそう年の変わらない少女であることに気がつき、「おや?」と首をひねる。
カジュアルな私服であることから、まず我が校の生徒ではあるまい。
さらに海西高校では、美容室からの「この生徒の髪色は地毛である」という証明書の提出がない限り、髪は黒が原則だ。
少女の髪は、根元に若干黒が覗く金髪。顔立ちから、ハーフであるとも思えないので、他クラスの生徒のコスプレの線も消える。
今日は休日なので当然他校の生徒も来ているだろうが、こんな面白みも何もない展示を見に来るような物好きはそう居まい。
となると、これまで通りクラスメイト達の近縁者だろうか?
とりあえず内心でそう結論づけて、暫く休めた表情筋に鞭打って営業スマイルを浮かべると、それを見た少女がなぜか「ぶはっ!」と下品に噴き出した。
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