海西高校文化祭

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「な、なにそれ営業スマイル? 似合わなすぎるでしょ……!」 「へ?」 失礼にも人の顔を見ていきなり笑い出した少女は、盛大に笑いながらこちらにつかつかと歩み寄りながら派手な色の髪に手をかけ、あろうことか力任せに引っ張る。 引っ張られた髪はその力に従うようにずり落ち、なんとその下から肩口を(くすぐ)るほどの栗毛が姿を現した。 更に少女は掛けていた赤縁眼鏡を外すと、そこには最近すっかり見慣れた顔が立っていた。 「……仕事はどうしたんだよ」 「今日は午前の雑誌のインタビューだけだったのよ」 「だから来ちゃった」と小憎らしいほどの笑顔で(のたま)う少女ーーアイドル天城晴陽は、図々しくも受付のための椅子にどっかりと腰を下ろし、小さく息を吐き出した。 「一人で来たのか?」 「まさか。まず場所がわかんなかったし、マネージャーに連れてきてもらったわよ」 「聖夜さんも大変だな……」 事務所に加入する時に提出した書類には在籍校も書いたので、天城と俺達のマネジメントを一手に担う聖夜さんなら確かにここの場所も知っているだろう。 「で、その聖夜さんは?」 「別々に入ってきたから、そろそろくると思う。スーツ姿の男と連れ立って入ってきたら変装の意味がなくなるし」 「それもそうか」 そう言うと、天城は端末を取り出して素早く操作を加える。 おそらく聖夜さんに場所をメッセージで伝えたのだろう。手早く作業を終えると端末をスカートのポケットに仕舞い、座ったまま展示物を眺め始めた。
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