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「はっ……はっ……」
「雷……ちゃん……?」
荒い息を繰り返しながら、暴れ回る心臓を抑えつける。
充満する鉄の匂いにむせ返りそうになりながら、まとわりつくように右手に残る感触を握り潰した。
血みどろの床に沈む二人の男がひゅうひゅうと空気を吐き出しながら潰れた喉を押さえ、苦しげに呻く。
ぐらぐら揺れる視界に映るのは、かつて師と慕った男と、一人の兄弟子。
そして俺の右手に収まった、彼らの血に濡れる一本の竹刀。
返り血を浴び、顔を紅く汚した俺が振り返ると、切り裂かれ、ボロ切れ同然となった服を纏った少女がひっと恐怖に声を引攣らせる。
「雛姉ぇ……」
「い、いや……来ないで!」
ーー約束、守ったよーー
そう歩み寄ろうとした俺に投げかけられたのは、拒絶の言葉。
瞳に涙を浮かべ、俺から逃れるようにずりずりと後ずさる少女に叩きつけられたはっきりした拒絶に視界が暗くなり、その場に倒れ込む。
ーーなんで、約束、守ったのに……どうして……?ーー
延々と自問を繰り返し、やがて俺の意識はぷつりと途切れた。
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