追憶

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ふと気がつくと、俺は懐かしい場所に立っていた。 ぴかぴかに磨き上げられた板張りの床に、ややくすんだ漆喰の壁。逞しい角材の柱によって支えられた、だだっ広い平屋の日本建築。 今でも手が届きそうにない高さの壁には、黒い毛筆で名前が書かれた木の板が掛けられ、その下には年季の入った竹刀と木刀が掛けられている。 つんと鼻が嗅ぎ分ける、日本家屋特有のなんとも言えない香りの中に混じる汗の匂いに思わず頬を綻ばせると、奥からドタドタと騒々しい足音が響いてきて、そちらに視線を向ける。 「ほら、早く来ないと師匠(せんせい)が来ちゃうぞ。それまでに準備運動を済ませとかないと」 「元はと言えば平兄ぃがギリギリまでゲームなんかしてるからでしょ? バレて怒られても僕知らないからね」 「んなっ……! 雷翔だって興味津々で見てただろ!」 「僕はちゃんと準備終わらせてから見てたもん」 「ぐっ……顔と違って可愛くないガキめ……」 道場の更衣室から喧しく飛び出して来たのは、中学生と思しき少年と、まだ小学校の中学年に上がったばかりかという年の頃の少女。     
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