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……いや、少女というのは正しくない。なぜなら俺は彼女が「彼」であることを誰よりも知っているのだから。
飛び出してきた二人は、その身体に濃紺の道着と袴を纏っており、わいわい騒ぎ立てながら慌ただしく柔軟運動を始める。
そんな微笑ましい光景を眺めていると、不意に二人が飛び出してきた更衣室の、隣の扉ががちゃりと音を立てて開き、そこから姿を表した一人の少女が呆れたようにため息を吐いた。
「またやってる……平さん、またゲーム機没収されますよ?」
「ええ!? 勘弁してくれよ雛乃、あと少しでクリアなんだよ!」
「別にゲームをやめろとは言ってないですよ。練習前にやらない方がいいって言ってるんです」
「雛姉ぇ、平兄ぃのゲーム機に裸の女の人が映ってたんだけど、あれはなんなの?」
『ちょっ……!』
やんわりと少年を窘める少女に柔軟を中断した小さな俺が歩み寄ると、俺はじっと少女の目を見上げてそんなことを尋ねる。
投下された思わぬ無垢の爆弾に、無駄と分かりつつも思わず静止の声をかけるが、当然彼らには届かない。
俺の言葉に少女がぼっと顔を沸騰させると、彼女は俺を背中に庇い、少年に氷点下の眼差しを向けた。
「……最低」
「ガチトーン!? いや、アレは違うんだ! ってか雷翔! 雛乃には秘密って言ったよな!?」
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