~ひと重~ ふわり、ほころぶ。

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   毎年この時期が訪れると、由衣(ゆい)は心が浮き立ってしまう。  なぜなら彼と逢えるから。彼が由衣のために、心づくしの花見弁当を用意して、ふたりだけの秘密の場所へやってくるのだ。  由衣が彼と初めて出逢ったのは、今を盛りと咲き誇る桜の美しい、四月三日は黄昏の桜並木での出来事。  その日の授業を終えた由衣は、帰り支度をととのえ学園を後にした。その道すがら、ふと桜の香りが鼻につく。無論ほんとうに香った訳ではない、そんな気がしただけだ。  けれども好奇心旺盛な十七歳の由衣にとって、踵を返すには充分すぎる理由となる。  自宅とは逆の道を、心が示すまま歩いてゆく。当てがある訳ではないけれど、不思議なことに進む方向に迷いはなかった。  時間にして三十分は歩いただろうか、程なくすると緑ゆたかな公園が見えてきた。自宅とは同じ区域ではあるが、学区が違うため彼女がこの地へ訪れるのは初めて。 
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