~八重~ ふわり、散りぬべき。

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 由衣が食べたいであろうものを取り皿に分けてやり、それから自分も箸を進めながらフランスでのことを話す。 「俺の店はプロヴァンスでも、指に数えられるほどになった。それもこれも、由衣おまえのおかげだ。あの日、俺の誕生日にケーキつくってくれただろ。 あとで気づいてさ、箱をあけてすげえ感動した。俺のために由衣がつくってくれたんだって、泣きながら俺ケーキ食ったよ」  そう話す綾人は、その時のことを思い出しているのか、うっすらと双眸に光のつぶが浮かぶ。 『綾人くん……そうだったんだ』 「でさ、食ってて気づいたんだ。餡子(あんこ)はねえだろ。普通さ、スポンジのあいだには、クリームと果物だろ。それがフォークですくってっとさ、どんどん黒い物体が出てくんだ。 マジでビビったぜ。あいつ何を入れたんだって怖くなってさ、掘り返してみたら餡子だろ? 笑うしかなかったもんな。けどそんな抜けたところも、すげえ好きなんだから相当やべえよな。 でもその餡子がヒントになって、俺の店はフランスで大うけでよ。フレンチに日本料理を取り入れただけで、斬新だってメディアに取り上げられてさ。最後まで由衣には世話になった」
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