~ひと重~ ふわり、ほころぶ。

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「それで話のつづきは? 座ったんだから、はやく教えなさいよ」 「へいへい。つか初対面でさ、あり得ねーぐれえ命令してくんのな。どんだけ気の強え女なんだ? まあいいけどよ。そんじゃさ、飯食いながら話してやるよ」 「飯って……今からどこかに行くの?」 「違げえって。弁当があんの、花見弁当が」  花見弁当っていったい……。  綾人の顔を見てみると、やたら自慢げな容貌をしていて、今から何が始まるのか不安で仕方がない。  かたわらのトートバッグから、彼は小ぶりの風呂敷包みを取りだす。それを解くと、なかから可愛い、三段重ねの重箱がすがたを現した。 「もしかして、それって……」 「そ。味は完璧、ガチ保証する。今日はボッチ花見の予定だったけどよ、まさか女の子と飯食えるとは思わなかったぜ。まあ暴力女だけどな」  たらたらと喋りながらも、綾人はレジャーシートのうえに重箱をひろげてゆく。それから水筒を取りだすと、カップへそれを注ぎ私に差し出す。  いちいち失礼なもの言いだけど、一応私は飛び入り参加ということになる。癪ではあるけど、お礼を言わない訳にもいかない。 「ありがとう。その、お邪魔します……」 「おう」  綾人はカップを掲げてにかりと笑う。  それから「乾杯」と音頭を取ると、人懐っこそうに目を細めた。くすぐったい綾人の笑顔に、急速に鼓動が高鳴る。それを知られたくなくて、視線を落としカップに口をつけた。  ほのかに甘い桜の香り。カップに注がれたものは、春らしい桜の紅茶だった。
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