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未確認恋愛感情URF
佐伯美代子は陸上部である。
高い位置で結んだ長いツインテールを揺らし、ぴょんぴょんとハードルを飛び越える姿から「うさぎ美代子」、略して「うさ子」と呼ばれている。
うさ子は高校一年生の中では背が高い方で、跳ねるツインテールの頭は視界に入りやすかった。
「昨日のブイナナみた? 超格好良かったよねー。……そうそう、あの時の孝史がさー」
何気ない瞬間にも視界に入るもんだから、自然と友人との会話も聞こえてくる。うさ子はアイドルグループブイナナのリーダー孝史のファンで、ブイナナが出ているテレビは全てチェックしているらしい。
「まじで? 行く行くっ! 孝史が美味いって言ってた店でしょ? 一度あの店のパンケーキ食べてみたかったんだよねー。クリームたっぷりにフルーツが乗ってる奴。想像しただけでよだれが垂れるわ……あはは。ケーキは別腹だって」
昼休み。教室では仲のいいグループが集まってそれぞれに昼飯を囲んでいる。俺は親友の正浩と二人、購買のパンを頬張っていた。
「向こうの孝史は随分と洒落てるな、隆史。パンケーキだとよ」
正浩はニヤニヤ笑いを噛み殺しながら、俺の顔を覗き込んできた。
「うるせぇ。一緒にすんなよ」
「俺たちも行ってみるか?」
「馬ぁ鹿。男二人で行くような店じゃないだろ」
俺は軽いノリの正浩を半眼で睨みつけつつ、コーヒー牛乳のストローをくわえた。
俺の名前は間宮隆史。ブイナナの山宮孝史と一音違いの高校一年生。当たり前だがブイナナとは何の関係もない。
「孝史って人類の宝だよね。あの格好良さは宝だよ、国宝だよ」
「国宝だってよ、隆史」
「だから、一緒にすんなって」
別に盗み聞きをしている訳じゃない。うさ子の声が大きいから自然と耳に入ってくるだけだ。少しハスキーな声。だから余計に目立つ。
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