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「見られたな。こいつ、どうする?」
「人買いに買われたかわいそうな子供だぞ。見逃してやったらどうだ?」
「目撃者がいたとあっちゃあ俺たちラ・ゲルダ盗賊団の名が廃る!かといって、子供を手にかけるのはなあ...。」
ファルの頭上でこのような会話がもう十数分ほど繰り返されている。彼らはラ・ゲルダという盗賊団の一員らしい。盗賊といっても根っからの悪人というわけでもなく、子供を手にかけるのをためらっている。これなら、助かるかもしれない。ファルは自分を捕まえて口を押えている細長い男の手を軽くたたいた。
「ん?」
「どうした?」
「こいつ、何か言いたいことがあるらしい。」
処遇を待つ人間に意見を聞いてどうする!
いや、自分の処遇に意見する権利はこいつにあるはずだ!
どこの世界に相手の意見を気にする盗賊がいる!?
お前、見逃してやったらどうださっき言っただろう!?
こんな問答が小声で5分ほどなされ、ようやくファルは口を利くことを許された。自分たちではこの問題を解決できないと結論がついたらしい。
「僕はあなたたちのことを絶対誰にも言いません。あなたたちは子供を手にかけたくない。でも盗賊としての名誉も守りたい。それなら、僕が今日見たことを誰にも話さなければいいんです。だから僕を見逃してください。」
男たちは顔を見合わせた。ひそひそとファルに聞こえないようしばらく相談すると、細長い男が口を開いた。
「本当に誰にも言わないんだな!?」
「持効なんてないぞ?一生、今日のことは話さないんだな!?」
「はい。お約束します。」
「そ、それなら見逃してやっても...。」
利害が一致し、男たちがファルを放そうとしたその時。
「ドガ、デューイ。お前ら偉くなったもんだな?」
地を這う声が轟いた。
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