温故知新

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あの人の誕生日 彼とディナーの約束をしていた薫子は、ぎりぎりになってキャンセルの連絡を受けた。 理由は上司との急な食事。 奮発した評判の良いレストラン、何ヶ月も前からとっていた予約にキャンセルを告げて電話を切った。 帰宅しようと虚しい気持ちで偶然通りかかった店の中に、薫子は見てしまった。 高志が女性と食事をしているのを。 それから薫子は高志の家の前で彼の帰宅を待っていた。 遅くにやっと帰った高志と、彼のマンションの廊下で二人きりになる。 「…今日はどうして来てくれなかったんですか。あなたの誕生日のお祝いしたかったのに…」 薫子は俯きながら呟いた。 高志は、ここに薫子がいることを想定していなかった迂闊さを後悔しているようだった。 「…連絡したろ。上司に急に誘われたんだ。企画のことで相談があるって断れなかったんだよ」 「嘘言わないで!私見たんですよ、今日、偶然赤坂のレストランの前を通ったんですから!」 それを聞いた途端、明らかに高志の態度が変わる。 「上司の娘だよ。偶々鉢合わせしたんだ。俺はいちいちお前に何から何まで報告しなきゃならないのか?」 「……そんな。そんなの分かりません……高志さんは何も教えてくれないじゃないですか…」 「一体何を教えればいいんだよ。お前に俺の仕事の話したって仕方ないだろ」 「前の高志さんはそんなじゃなかったです…」 「いつまでも人が同じな訳ないだろ」 高志は舌打ちすると薫子を置いて自分の部屋に一人入ってしまった。 薫子は唇を噛み締める。 溢れそうになった涙を払った。 閉じた高志の部屋のドアを力なく見続けて、やがて薫子も踵を返して帰っていった。
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