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私の誕生日
外は晴れ渡った夕闇で、窓から見える景色についぼんやりしていたらしい。
扉の向こうのノック音に気が付くのが遅れた。
慌てて返事をすれば、オフィスの更衣室には仲の良い同僚が入ってくる。
「何、ぼんやりしちゃって。折角いいお知らせを持ってきたのに」
「……いいお知らせ?」
「あなた今日誕生日でしょ。課のみんなで飲みに行かない?」
嬉しそうに笑う香に、薫子も少し笑った。
「日頃の感謝をこめて~、とかも言ってたよ」
「勿論樋口も参加するし。行くでしょ?」
薫子の動きがぴたりと止まる。
ふふふと含み笑いをして香は近くの椅子に腰をおろした。
「……樋口が行くから私も行く?どういう理論?」
「べっつにー。でもさー前の彼氏とは別れたんでしょー?」
にやにやする香にしっかりと肩を掴まれて揺さぶられながら、薫子は言葉を捜したが見つからなかった。
「最近何かにつけて樋口くん樋口くんて話してるよねえ?気づいてなかった?」
「……うるさいわね。ブラジャー姿のまま迫って来ないで」
きゃあとふざけた悲鳴を上げて香が離れると、飲み会への参加を承諾した。
香は勝ち誇った笑みで私服に着替えをすませると、鼻歌混じりに薫子と一緒に更衣室を出た。
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