温故知新

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「……」 さらっと言われたことに一度口を開いたが、ここは聞き手に回ろうと樋口は言葉を呑んだ。 「もう何年も一緒に仕事してるし、樋口くんが高志さんと同じじゃない事も知ってる。だから平気」 「……本当ですか」 「もちろん」 「今夜これから俺が抱こうとしても」 「……平気だと言ったら本当にするんでしょ」 「俺を信じて、笑っていてくれますか」 その問いに、反射的に薫子は顔を上げる。 見下ろす樋口の瞳は真剣だ。 場にそぐわない明るい笑みが自分に浮かぶのを感じる。 「ええ。…今度は心変わりさせる暇も無く、幸せにして二人で笑っていてやるつもりだわ」 プライドの高い高志は、自分に合わせようとした薫子を疎んじた。 それでも高志が好きで離れられず、けれども彼に鬱陶しがられることにも耐えられず、泣いてばかりで、薫子はあの頃の自分がどうしようとないと思っている。 あんな恋をする人間でいたくない。 今度は、浮気をされたらひっぱたく。 すれ違ったら無理矢理にも向き合わせて話をする。 そうすると決めた。 不安を乗り越えてもっと近くなりたい。 薫子が伸ばした手に、応えて樋口が手を繋ぐ。 「………赤坂先輩の口からそんな事が聞けて嬉しい」 「そう?…愛してる」 「……強烈ですね」 「…………今日ぐらいはね」 「お誕生日おめでとうございます」 二人の時に言いたくてとっておきましたと笑う唇に、礼を言う代わり薫子はそっと自分のそれを重ねた。
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