だしの香りは思い出の香り

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「味がな、味がおかんの味やなって思ったから」 「え?」 「おかんの味・・・・・・」 悠太の母親は料理上手だった。そして、だしも上手く使いこなすような人だった。 一年ほど前までは口にしていただしの旨みを遊佐が作ってくれた卵焼きにも感じられて。 母親と別れて暮らすようになって今日まで堪えていた何かが沸きあがって来たようで。 悠太は涙を流した。 でもそれは悲しみや寂しさだけではなく『ここには自分を包み込んでくれる何かがある』と改めて安心させてくれたからかもしれない。 「なんかほっとしたんや」 「そっか」 遊佐と菱川の二人はそれぞれ悠太の頭と肩を撫でると頷いていた。 それを受け止めながら悠太は短く息を吸うと話し出した。 「俺な、ここに初めて来た時、そう、初めて来た時にもそう思ったんや。直樹くんが『いつでもおいしいものを用意して待ってます』って言ってくれたから」 そう、あの言葉はふと母を思い出させて家族を思い出させて切なくなったが、確かにあの時悠太の心を包んでくれたのだ、そっと。 「それにな、大祐くんが笑顔で俺を呼んでくれるのも嬉しいんや、いつも」 そう、菱川が笑顔で受け入れてくれることが悠太を前向きにさせてくれたのだ、きっと。 悠太は椅子から立ち上がると二人を順に見つめてこう言った。 「だから、直樹くんも、大祐くんも、いつもありがとう」 それは悠太の中でいつまでも大切にしたい気持ちを精一杯表現したものだった。 「やだなぁ、遊佐くんと俺と悠ちゃんの仲なんだから、当然でしょ?」 「そうだな、俺と大祐と悠太なんだから、当然だな」 今度は二人揃って悠太の頭を撫でると遊佐は笑い、菱川は悠太との距離をもっと詰めた。 三人はみんな優しい笑顔をしていた。
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