だしの香りは思い出の香り

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遊佐が悠太と出会ったのは、遊佐がこの洋食屋を継いですぐのことだった。 父の代から常連だった老紳士がある日、見たことのない男の子を連れてきたのだ。 「いらっしゃいませ」 「どうも、今日は二人で来させてもらいました」 老紳士の名前は河合裕三と言った。 彼はいつもならカウンター席に座りゆったりとした時間を過ごすのだが、今日はテーブル席の方へ向かう。 彼が連れてきたのは中学生ぐらいの男の子だった。 初めてやってきた場所だからか彼は緊張した面持ちで彼の後をついていく。 「さぁ、何でも好きなものを頼むといいよ。ここは何でもおいしい」 「はい」 席に着くと裕三は悠太に笑いかける。 この日も本来ならホールを担当するのは菱川だったが、ちょうど休みを取っていた。 そのため、遊佐は自ら二人にメニューと水の入ったグラスを運ぶ。 「いつもありがとうございます」 遊佐がそう声をかけると裕三は微笑んで 「いやいや、いつもおいしい料理を出してもらえて、有り難いのはこちらだよ」 「そんな風に仰っていただけて光栄です、ありがとうございます」 「そうだ、この子は孫の悠太と言います。これからは一緒に来させてもらうと思うのでよろしく」 「はい、いつでもおいしいものを用意してお待ちしています」 遊佐の言葉に悠太はメニューから顔を上げて彼の顔を見つめる。 その視線に遊佐は気づいて 「いつでも来てください」 と改めて悠太に告げると笑いかけたのだった。 それを見た悠太は小さく『はい』と言ったかと思うと途端にメニューへ視線を戻した。
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