だしの香りは思い出の香り

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以前は、休憩時間になると遊佐と菱川が並んで座っていたカウンター席。 その間に悠太が座るようになったのは、三人にとってごく自然な流れだった。 どこか心細そうな、でも明るく振る舞おうとする悠太を二人は弟のように接した。 悠太は、いつでも変わらず優しく楽しく迎え入れてくれる二人を慕った。 最初はお小遣いで休みの日の昼食を食べに来ていたが、忙しそうにしている二人を見て悠太が手伝いを申し出た。 「俺に何か手伝わせてもらえませんか?」 「え?いいの?」 悠太の言葉を聞いた菱川はそう返しながら遊佐を振り返った。 「いいのか?」 確認するように遊佐は悠太を見る。 「いつもここに居させてもらってるし、おいしい料理食べさせてもらってるし」 「いや、それはだって。悠ちゃんはお客さん・・・・・・でもあるし」 そう戸惑いながら菱川が返すと 「うん、いや、そうなんやけど・・・・・・」 と悠太も困り顔になった。 「悠太は、俺たちと一緒に『グリル ゆさ』をやってくれるってことなんだな?」 遊佐は悠太の目を見つめて確認をする。 「はい」 悠太はしっかりと頷いて、遊佐と菱川の顔を見つめた。 二人は顔を見合わせた後、悠太に笑顔を向ける。 「じゃあ、まず手を洗ってエプロンをつけてもらおうかな」 遊佐がそう言うと菱川が「じゃあ悠ちゃん、まずはこっち来て」と悠太を呼び寄せる。 その時からだった。 三人がカウンターに並んで『まかない』を食べるようになったのは――
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