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「い、いよいよ、ここまで来たな」
そう言って勇者は背後にいる仲間たちの顔を見た。
僧侶ガルフ、魔法使いエイミィ、戦士オースティン、これまで共に冒険をしてきた仲間たちも同様に勇者の顔を見つめコクリと頷く。
「うむ、この時間なら魔王も眠りこけているはずじゃ」「それに何故か分からないけど、今日は魔物も少なかったしね」「正に絶好のチャンスって奴だぜ」
長い冒険の末、勇者一行は遂に魔王城の地下最深部――魔王の間まで辿り着いた。目の前にあるのは禍々しい悪魔のレリーフ施された鋼鉄製の巨大な門、この向こうには邪悪な魔王グレゴールがいるはずである。魔王軍の侵略を阻止するための彼らの長い旅も、いよいよ佳境を迎えようとしているのだった。
「い、いくぞ。今日こそ魔王を倒して、世界に平和を取り戻すんだ」
仲間にだけ聞こえる程度の声で合図を送ると、勇者は門に触れている手に力を込めていく。戦槌、魔法の杖、斧、仲間たちの武器を握る腕にも自然と力がこもる。
そして――
「とうとう追いつめたぞ! 魔王グレゴール!」
叫び声と同時に巨大な扉を開く勇者であった……が
「は?」「うん?」
勇者と魔王グレゴール、二人は互いに顔を見合わせて固まることとなった。
勇者の予想通り、確かに魔王の間には魔王グレゴールはいた。しかし、当の魔王の間は勇者が想像していたものと大分違っている。綺麗な飾り付けと豪勢な食事、そして黒いテーブルクロスの引かれた長テーブルの中心には六段重ねの大きなケーキが鎮座している。さらに、魔王だけでなく無数の魔物たちが勇者たちを見ている。
「な、なにコレ?」
あたりを見渡し、魔法使いエミリィは困惑したように呟く。
「ハ、ハッピーバースデー魔王様だと~?」
高い天井には確かにそう書かれた垂れ幕が掛けられている。
「なんだ? なんでこんな場所に勇者がいるんだ?」
魔王グレゴールの隣にいた、側近の悪魔将軍が勇者たちを指差して不思議そうに呟く。
「え、それは……」
狙っていた奇襲のタイミングを完全に逃してしまった勇者は、口ごもってしまう。
「は、まさか? 貴様ら……」
その時、何かを悟ったように悪魔将軍が声を上げる。
『や、やばい。バレたか』
勇者一行に緊張が走る。
「魔王様の誕生日を祝いに来たのか!」
「いや、ち、違……」「そ、そうなよ~」
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