その1

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 言いかけた勇者の否定の言葉を、魔法使いのエミリィが寸での所で遮って、代わるように悪魔将軍に答える。 「そうなの?」  魔王グレゴールは疑り深い目で勇者の方を見る。 「も、勿論よ。いつもはいがみ合ってるけど、今日は特別な日だかね。お祝いするのが人間たちの風習なのよ」 「本当に?」 「だから、ち、違っ……」「そうじゃ」「ああ。勿論だ」  再び否定の言葉を言いかけた勇者の口を、僧侶ガルフ、戦士オースティンが塞ぎ、辻褄を合わせるように魔王グレゴールに向かってコクコクと頷いて見せる。 「お前たち、何で? まさか敵の魔法?」  抗議の目で仲間たちを見つめる勇者の腕を、魔法使いのエミリィがグイと引っ張る。そのままグレゴール達に背を向け、耳打ちをする。 「あんた、ちょっとよく考えなさいよ。魔王一人でさえ厄介なのに、これだけの魔物を敵に回して勝てると思ってるわけ?」 「た、確かに……」 「そうじゃ。ここは奴らの勘違いに乗って、隙を見て逃げ出して体制を立て直すのじゃ」  僧侶ガルフがエミリィの言葉を補足する。 「そ、そうだな……」 「どうした?」 「ああ。今日ばかりは休戦だ。誕生日おめでとう。魔王グレゴール」  振り向くと、勇者はニコリと引きつった笑みを浮かべ魔王グレゴールに向かって祝いの言葉を述べる。 「はい。これ誕生日プレゼント。薬草と毒消草の詰め合わせよ」 魔法使いのエミリィは腰の道具袋からアイテムを取り出して魔王グレゴールへ手渡した。 「……プ、プレゼント雑じゃね?」 「じゃあ、聖水もつけるし。これ、悪魔に効果的だし」「いや……それはいらないんじゃないか」 「ゆ、勇者よ……」 魔王グレゴールの大きな目を感動したように潤ませている。それを見て勇者の胸の中は罪悪感で一杯になった。  そして勇者たち一行を含め、魔王の誕生パーティが始まった。動く骸骨が音楽を奏で、ゴーレムたちは給仕をする。高い天井ではコウモリが歌を歌う。魔王城のパーティが。 「さぁ、遠慮はいらない。じゃんじゃん食べてくれ」  魔王グレゴールの言葉と同時に、勇者一行の前に黒い皿とナイフとフォーク、そしてワインが供される。髑髏の燭台に照らされる長テーブルには幾つもの大皿が置かれ、その上には見たこともない様々な料理が載っている。 「こ、これは?」「一角うさぎの唐揚げでございます」
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