かのぴ

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かのぴ

 いまが、わたしの人生のなかでいちばん心穏やかなときだ。なんせ、働いていない。日中は最低でも四時間は昼寝をし、そのぶん眠れなくなる夜は睡眠導入剤を飲んで強制的に身体を眠らせているから十時間は余裕で寝れてしまう。日々の半分以上を眠って暮らし、ほとんど人と会わず、空いた時間はradikoのタイムシフトをつかってひたすら深夜ラジオを聴いている。つまり、現在のわたしには心に負担をかける隙がないのだ。ビバ、ストレスレス。  そんなわけで、わたし史上もっとも落ち着いた日々を送っているわたしは因子氏が箱庭セラピーやってみたいねんけど、みなさんどうかいな、と言い出したとき、おもしろそう、と反射的に答えたあとで、あ、でも、わたしの心は暴いてもおもしろくなさそう、だって穏やかなのだもの、とすぐに思い直した。因子氏や遍在ちゃん氏はそりゃあもうごろごろあれなやつが出てくるだろう。そして出てきましたよ実際。しかし、わたしはきっと箱庭つくってカウンセラーの方に見ていただいたところで「そうねえ。海? ええ、そうよ、海だわ。あなたの心はいま、穏やかな海に似ているわ。ほら、耳をすませてみて。聞こえるでしょう、あの波の音が……」とかなんとかそんなクリスチャン・ラッセンめいたことを言われておわるんじゃないかしらんと高を括っていた、箱庭をなめていた。
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