『BACK‐END』

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COLLECTIONS 2 『BACK‐END』 第一章 逆まわりの時計  毎日、新鮮な野菜を食べたいという理由で、田舎に就職したが、二年で本社に移動になった。  それだけでも、かなりショックであったというのに、その時再開した友人、慶松 士志郎(けいまつ ししろう)と同居している。いや、家賃は払っているが、慶松の家で同棲している。 「氷花(しが)、明日は暇か?」  俺、氷花 護浩(しが まひろ)、K商事の企画課に勤めている。慶松は、家の前のラーメン屋松吉の店主であった。 「いいや、弟が来ると言っている」  俺は、この家に来て慶松に初めてを奪われた。でも、まだ二回目には至っていない。その理由は、一回目が、あまりにも痛かったのだ。その痛みを思い出すと、どうしても、又、しようという気にならない。  慶松は、俺が避けていると気付いていて、あれこれ策を練っている。慶松曰く、あんまり間があくと、又、初めてに戻るので痛いだろうという。 「氷花の弟?」 「そう、電話では相談できないっていうからさ」  大学に通う弟、氷花 有真(しが ゆうま)が来るという。 「彼女に子供でも出来たかな」  兄の孝弘には、もうすぐ子供が産まれる。しかも、出来ちゃった結婚であった。 「そういう悩みならいいけどさ」  慶松は、ならば一緒に悩みを聞こうと言ってきた。俺よりも、慶松の方が相談し易いというのは分かっている。  ラーメン屋松吉でも、よく慶松に相談している客がいる。慶松は、二枚目で女性にすごくモテる。しかも、優しく気さくであった。 「氷花、そろそろ二回目も検討してね。一回目よりも、俺の心には余裕があるからさ、無理もさせないよ」  それは分かっている。慶松も、時折、俺を見て暗い表情をする。俺が怖がっているのが、慶松には辛いのだ。  兄の孝弘にも、宍戸 六六(ししど ろむ)という男の恋人もいて、最初はかなり痛かったらしい。しかし、すぐに二度目、三度目を続け、今では感じまくり、イキまくっているという。 「分かっているよ」  分かっているけど、怖いのだ。  翌日、慶松は早めにラーメンの仕込みを始めていた。  俺が、駅に有真を迎えにいくと、大量の紙袋を持って駅に立っていた。 「有真。何、その荷物」 「護浩ちゃん、半分持って」  実家に寄ったら、母に持たされたらしい。中には手作りの漬物が、大量に入っていた。
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