『BACK‐END』

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「俺、野菜が好きだからね」  有真は俺よりも四歳程年下であった。今年、二十歳になった大学二年生で、実家を出てアパートで暮らしている。  よく双子に間違えられるが、俺と四歳違っているのだ。  玄関に音がしたので、慶松かと走って出ると、もう一人の同居人、岩崎 秀児(いわさき しゅうじ)が立っていた。同じく、慶松だと思って出て来た、有真を岩崎がじっと見ていた。 「氷花が二人……」  俺達は氷花であるので、氷花が二人というのは誤りではない。でも、俺が二人いるという意味であろう。 「弟の有真だよ。大学生」 「弟?」  幾度も見比べて、違いを探している。よく見れば、あちこちが違っている。一番の違いは、目の色であった。有真は、真っ黒としか言いようのない色をしている。 「俺、氷花 有真です。農大です。新種の米を作るのが夢です」  有真は、丼物が大好きで、丼物用の米を作ると張り切っている。今の米よりも、モチモチだが硬めというのがいいらしい。他に、幾度も親の凶作を見て来て、その年の天候を予測し、作る米を変えてゆく仕組みを造ろうとしていた。それには、俺も協力している。 「岩崎さん、用心棒みたいだ。ここに住んでいるのならば、安心ですね」  有真が、俺の腕を引きリビングに戻す。有真は、にこにことしているが、内心、怒っているようだ。 「有真?どうした?」  すると、有真の顔が泣きそうになった。このコロコロ変わる表情は、末っ子の特権のようなものだ。こうやって、心配させて興味を持たせて、甘えてくる。 「俺の兄で、俺の護浩ちゃんなのに、俺の知らない事があってショック」  では、慶松に抱かれてしまったと聞いたら、有真は倒れるかもしれない。  有真はバレーボール部で、背の低い方でもない俺よりも、更に高く伸びた。有真は、ソファーで俺を抱き込むように座ってくると、そのまま懐いている。 「護浩ちゃんは結婚して二人子供を作る。それで、離婚して子供を引き取り、俺と住むの」  どういう未来図であるのだ。でも、幼稚園の時から、有真のもう一つの夢は、俺と結婚する事であった。 「男同士では結婚できないし、俺達は兄弟だろう?」  そこで、有真が更に抱き着いてきた。 「だから、結婚を諦めた。でも、よく考えてみると、結婚しなくても一緒に住んでもいいよね。兄弟だもの」
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