2人が本棚に入れています
本棚に追加
まだ小さい時には、何度となく駄々をこねて連れて行ってもらった記憶があります。
母は綺麗で、真っ赤なマニキュアを酔っ払いながら、少女の小さな爪に塗ってくれたものでした。
「可愛いチイママだな」とお客さんに言われて、意味は分からなかったのですが、母の微笑む笑顔にウキウキとなったことを思い出していました。
そして灯りの中に映し出された金色に輝くライターが目に留まりました。
「これ、高いライターなんだから触ったらダメよ」
少女はその母の言葉を思い出しました。
すると少女は、手元にあるライターを全てビニール袋に押し込むと、またストールを頭からかけて、アパートの部屋から出て行ったのです。
目指したのは、新宿の駅前にある夷子屋という質屋でした。
母親がそこでバッグや、財布を売ってお金をもらうことを知っていた少女は、急いで雪道の中を走り、そこへ向かったのです。
新宿の駅までは歩くと随分かかります。しかし少女は、酔っぱらった母を迎えに何度となくこの道を一人で歩いたことがあるのです。
夷子屋に着き、そのライターを若い男性に差し出すと、質屋の男はこう言いました。
最初のコメントを投稿しよう!