39人が本棚に入れています
本棚に追加
ゲーテによれば、青年期は疾風怒濤の時代だそうだ。俺はつい最近まで、現代社会の授業で学んだこの言葉をにわかに信用してはいなかった。なぜなら、俺の青春は彼の言葉とは正反対の無風の時代であったからだ。
しかし、今この段階をもってそれは撤回せざるを得ないだろう。俺こと佐藤文章(さとう ふみあき)にとって、春休みから二年生進級後の四月にかけては明陵高校入学以来の激動期であった。
俺がそこで獲得したものは、さしあたり快感と痛みであると言える。前者は、眼前に立ちはだかる謎をたちどころに解くことによって得られた。後者は、それによって生じる副産物だ。
俺はこの春、<明陵定食の謎>、<連続図書すり替え事件>を解きある種の増上慢と化していた。そして、伸びた鼻っ柱は定石通り叩き折られる羽目になる。
だがしかし、俺は紳士としてその事実に向き合い、報いを受け罪は清算したと自負している。ある事件をきっかけに文芸部を休部、幽霊部員へと追いやられていた田中郁美(たなか いくみ)を救うという形で。
諸悪の根源である文芸部部長の久我は、俺のペテンに引っ掛かり、無事失脚となった。危機は去った。郁美にも、ようやく遅めの春が到来したのである。
最初のコメントを投稿しよう!