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帝国防衛軍もそれをただ見てるだけではない。
要塞から放たれる矢の雨。
たとえ数や錬度が勝っていようとも、接触すれば誰かが死ぬのだ。
それが友人かもしれないし、まったく顔も合わせたことのない他人かもしれない。
しかし、仲間が殺されるのだ。
帝国防衛軍は突撃していく連合軍に矢の嵐を見舞う。
先頭を走っていた騎馬隊や歩兵は、接敵するまでに倒れていく。
それでも連合軍は突撃していく。
戦争が始まる中、イセリアとドットは軍の中心部にいた。
緊張が張り詰める中、二人はのんきに言葉を交わす。
「それじゃあ、今から説明するね。」
「オウ。」
「まず私がいつものように防御魔術張ります。」
「うん。」
「敵をなぎ倒します。」
「うん。」
「要塞までたどり着いたら、そうね....とりあえず門をぶち破りましょう。」
「わかった。」
「それじゃあ、そんな感じで行きましょう。」
「オウ!」
二人の会話を聞いてた兵士は首をかしげる。
しかし、その会話の真意を、すぐに知ることになる。
「【風よ、友よ】」
イセリアが詠唱を始める。
魔術を使用するために頭の中でイメージを固めながら魔力を練り上げ、それを杖の先端に集めていく。
魔力が集まり、杖の先端は薄緑色に輝いていく。
周囲では、初めて見る魔術に感動を覚える者も。
しかしそんな周囲を気にせず、イセリアは自分の仕事を進めていく。
「【シルフの子よ。我が名イセリア。シルフを愛す者の名。我が力を糧にその奇跡を我に貸し与えたまえ】」
イセリアの詠唱が進むにつれ、杖の輝きは強くなる。
イセリアだけでなく、その輝きは連合軍を包んでいく。
そして準備が完了したのか、イセリアは一気に魔術を完成させる。
「【シルフの傘よ。火の雨すらも弾く堅強なる傘よ。我が頭上にその幕を今一度】。
≪シルフィード・アンブレラ≫」
イセリアの宣言とともに、杖にためられた魔力が拡散する。
魔力は放射状に広がり連合軍兵たちをすり抜けると、ゆっくりと上っていく。
円状に広がりきった魔力は、連合軍全員を包むなり頭上でキノコ状の膜を作り出す。
そして、見計らったかのように矢が飛来する。
膜を突き破ろうと矢は魔力の膜に突き刺さるが、風のキノコはそれを柔らかく受け流す。
力を失った矢は、力なくゆっくりと地面へと墜ちていった。
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