薄赤く、空青く

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────あなたが生まれたのは、満開の桜散る春の日でした。 青い空に薄紅が舞い上がる、満ち足りた空気で胸を一杯にして、初めて声を上げた子です。 だから、桜太(おうた)と名付けました。花を全うし誇らしく舞う桜のように、あなた自身を全う出来るように。──── 記された日付は、私が生まれた次の日。 「母さんが、こんな手紙を書いていたなんてね。」 火葬場の煙突から立ち上る面影を見送りながら、惰性の紫煙をくゆらせる。 この一本が、きっと最後だ。 「散れない桜じゃ、格好つかないからな。」 桜の葉生い茂る初夏、母に背中を押された五十の私が居た。
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