薄赤く、空青く

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満開を知らない桜を見たことがあるかしら。 私はあるわ。酷く寒いままの四月だった。 それは悲しい春の終わり方なのよ。 咲ききる前に花ごと落ちてくるの。 あちらこちらで、トツ、トツ…と地面を叩いては足元に転がるの。花を全う出来ないまま、力尽きたように。 「ああ、だから桜吹雪はキレイなんだな。」 恋人が言った言葉よ。 「冬を堪え忍んで、待ち兼ねた春に咲き誇って。花を全うして初めて散るんだから、そりゃあキレイなはずだよね。」って。 そして花の亡骸を手のひらに集めると、人の通らない所を選んで、そっと降ろしてやる。 「次は、散れるといいね。」 その寂しげで柔らかな笑顔に、私は声を上げずにはいられなかった。 「一緒に見届けましょう。次も、その次もずっと、ずっと!」 あの時の彼の顔ったら。 一年後、前の年が嘘みたいにもこもこと咲く桜の下で、彼は指輪をくれたの。 ふいに風が吹いて、花弁が舞い上がる。 その光景に、私達は今迎えている大切な瞬間も忘れて、薄紅と青の空を見上げていたっけ。 「わあ…すごいや、まるでパレードみたいだ。」 そう言った彼の横顔に、私は返事をしたの。 「不束者ですが、よろしくお願いします。」
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