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こうして、私と彼は夫婦になった。そしてあなたが生まれたのよ。
その日は、分娩室に籠っているのがもったいないお花見日和だったわ。まあ、中に入ってしまう頃には、それどころではなかったけれど。
「お疲れ様、無事でよかった。」
この手を取ってくれた彼の手は、とてもあたたかいのに、小さく震えていた。
まさに手に汗を握って、待っていてくれたのだろう。
その様子を思うと、なんだか可笑しくって、いとおしくって…嬉しくって、鼻の奥がツンとした。
「今日は朝から、桜がやけにざわざわとしていてね。ほら、病院の近くの並木道。だから、きっと今日、生まれると思っていたんだ。」
そう言って彼は胸を張ったけれど、私の背中は丸まっていた。
「けれど、とても小さいわ。」
あなたはちょっぴり早く会いにきたから、とても心配だったの。
そしたらね、彼がこう言って笑ったの。
「でも元気だ。保育器を蹴り破ってしまうんじゃないかとはらはらしたよ。」
「ふふ、そうね。」
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