プロローグ

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 高校から合格通知をもらってから、決まって晩飯の時間が近付くとクイズを出すんだよなぁ。  で、間違うと、卓袱台の向こうの座椅子にちょこんと座った、今年七十七歳になる、バアちゃんが名古屋弁丸出しで、「おみゃーがこの店を継いだら、どえりゃーことになる! おそがい子だわ!(恐ろしい子だよ)」と、情け無用な説教をするんだから胃袋に悪いんだよ。  十六歳になったばかりの前途有望な孫を眺めて、まるで悪魔の申し子のように叱るんだから、まったくやりきれないよ! 食事の前に、くどくど文句を言われたら、味だってしなくなるし、この頃は若干、舌がざらついて調子がおかしんだよね。  だけど、うちの家庭じゃ、民主主義がなくて、階級社会で恐怖政治がはびこってるんだから、《板垣死すとも自由は死せり》と名言を遺した板垣退助先生もさぞや嘆かれるんじゃないのかなぁ。  この家じゃ、バアちゃんの権力は揺るぎがなく、厨房を預かるオヤジでさえ頭が上がらない。独裁国家だよ。  とにかく、「いい加減にしてよ、バアちゃん!」なんて不平を口にするのは禁句中の禁句で、あとでオヤジから、「おおちゃく言うとったらいかんわ~! おみゃーは百年早いで、こんたわけ!」と、鉄拳制裁は必定なんだ。  おまけに百年って、バアちゃんの年齢を越えてもまだ文句を言ったらダメってことじゃんか!
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