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「小宮さーん。診察室へお入りくださーい。」
力無く業務呼び(この医院では楽な呼び方として、こんな言い方をしている)をして、今日初めての患者を招き入れた。右にスライドして開けるタイプのドアは軽い。ただ、体は重そうにして小宮さんが入ってきた。
「は…はい。よろしくお願いします…。」
「はい。よろしくお願いしますね。」
ここで患者のテンションに関係無く普通に返さなければならない。それがカウンセラーとしての第一歩だったりする。
それから…
「ドアを閉めますねー。」
机の引き出し近くにある 緑色のボタンを押す。すると、音もなくそのドアの鍵が閉まる。患者はこの事は知らない。けれどカウンセリングの規定で、義務付けられている事は書類には書いてある。これも、カウンセリングの一貫で、外部からの情報や人物をシャットアウトすることで、知っていることをすべて話しても良いという安心感をもってもらうための計らいだ。
さて、まずはカウンセラーの基本。相手を落ち着かせることから始まる。
「大丈夫です。この中は独立していて、あなたの感情は私だけに、私の感情はあなただけに伝わっています。あなたを見ている人は私だけ。心許す限りにあなたの身近で起こった出来事を伝えてもらって構いません。」
「え…あ…わっ、分かったっ。」
小宮さんは、スーツの襟を直しながら答えてくれた。そんなに固くならなくても良いし、別に正装で来られなくてもよかったのだけれど…それは、小宮さんの気持ちとして受け取っておくという意味で、俺は小宮さんに向けて安心している感情を送った。
小宮さんはそんな感情に、安心した感情で答えてくれた。どうも話す気になってくれたようだ。
「あ、じゃあ…はじめから…話します。」
「どうぞ。お願いします。」
俺は、小宮さんの話に耳を傾けた。
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