秘密のバスルーム

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いつも抱いている愛しい体が、はっきりと見える。初めて目にする美夜の柔肌と曲線美に、心奪われた。 けれど暫くしてやっと気付いた。 彼女の左腹部の縫い傷の跡に。 「……これね、前に付き合ってた人に刺されたの」 そこに指で触れながら、静かに告白する声がバスルームに反響する。 俺は余りの衝撃に声が出なかった。 「凄く嫉妬深い人でね、私が浮気してるんじゃないかって、いつも疑ってたの。でも優しいところもあったし、それだけ愛されてるんだって思ってた」 「愛してたら、そんな事しない」 やっと開いた口から、低い声を響かせる。美夜は「サプライズなの」と薄く笑った。「サプライズ?」訊き返すと、俺の知りたかった事を全部自分から語りだした。裸のままで。 まだ付き合っていた頃、その元カレは美夜の誕生日や記念日にサプライズするのが好きで、彼女も毎回それを楽しみにしていた。だけど最後の誕生日のサプライズプレゼントは、心中を図った男の突き刺した包丁。幸い命に別状はなく、男もすぐに捕まったが、それが今でもトラウマになっていると美夜は明かした。 暗闇でしかセックスをしなかったのは、その時の傷を見られたくないのがひとつ、もうひとつの理由は、そいつとの性行為を、いつも明るい中でしていたから。男の部屋か、以前住んでいた美夜の部屋で。だからそれもトラウマの一部で、俺とする時は、わざわざラブホテルに場所を変えて、真っ暗にしないと出来なかった。 「ありがとう」聞き終えて俺は言った。 美夜は不思議そうな顔をしている。話の中には言いずらい内容もあった筈だ。でもそんなのどうでもいい。全てを丸裸にして、見せてくれているのだから。 抱き寄せた肌が普段より柔らかく、温もりを感じる。 背中に回された細い腕が僅かに震えていた。俺も裸を見せたのは初めてだ。きっと緊張もあるのだろう。 唇を重ねてから「大丈夫だよ」と白い耳元で囁いた。 淡いピンク色の湯の中で向かい合い、心細そうな声が言う。 「こんなプレゼントで本当に良かったの?」 「うん、最高のプレゼントだよ」 そう答えて、時々ピンクと一緒に揺れる膨らみに、手を伸ばし包むように撫でた。美夜の唇から甘い息が漏れる。視覚から得た、美しさといやらしさに、気が急いた。 早く抱きたい。 暗闇のないベッドの上で、何度でも愛し合いたい。 今日からずっと。 ☆END☆
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