愛するということ

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 *****  七月二十五日、春人は大学の夏休みを利用して、高校時代の男友達三人と共に、夜行バスで二泊三日の京都旅行へ出かけた。一日目は清水寺や伏見稲荷大社などを観光し、京都市内のホテルにチェックインをして二人ずつ部屋に入った。  食事と入浴を済ませた頃には、すでに午後八時を回っていた。それから春人たち四人は片方の部屋に集まり、持参したトランプで大富豪やポーカーなどのカードゲームを楽しんだ。日付が変わって一時になった頃、春人は同室の佐倉健斗と共に自分たちの部屋に戻った。  部屋に戻ってからは大人しく各々ベッドに潜った。しかし春人は一時間経っても眠れなかった。隣のベッドを見ると、佐倉はすでに眠っているようだった。  ふと思い立った春人は、佐倉を起こさないよう静かにベランダに出て、北見のスマートフォンに電話を掛けた。四コール目で北見は電話に出た。 「どうした、こんな時間に」  北見が眠そうな声を上げる。春人はまず、時間を考えずに電話を掛けたことを詫びた。それから、「あなたの声が聞きたくて」と正直に告げた。  電話越しに小さく北見の笑い声が聞こえる。それを聞いて春人は安堵した。「おまえらしいな」と北見が呟く。 「そっちの気温はどうだ」 「ちょうどいいです。夜風が気持ちいい」 「外にいるのか。月は見えるか」  北見の言葉に、春人が頭上を仰ぐ。見ると、大きな丸い月が下界を見下ろしていた。 「ええ。綺麗な月が見えます」  答えると、「ちょっと待っていろ」と北見は言い、何やらがさがさやり始めた。しばらくして、北見は再び声を上げた。 「俺もベランダに出た。俺たちは今、遠く離れた場所から同じ月を見ていることになるな」 「ロマンチックですね」  北見は普段からそのようなことを平気で言うような人間であったため、春人は別段気に留めなかった。興醒めするどころか、むしろ興奮したくらいだ。  これ以上話していては正気でいられない。そう考えたところで、「どうだ、満足したか」という笑い声交じりの北見の声が聞こえてきた。 「ええ。ありがとうございました。おやすみなさい」  そう言って春人は電話を切り、着ていたジャージのポケットにスマートフォンを仕舞う。満月の淡い光は、静かに辺りを照らしていた。
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